【男装】

総司と斎藤に連れられ、部屋に案内される。
「こっちの隣は一君の部屋で、反対側がボクの部屋だから。夜這いする時は間違えないでね。」
含み笑いを浮かべながら、総司が言う。
「よっ…夜這いなどしません!!」
「なーんだ、しないの?あ、じゃぁして欲しい派?」
「ちがっ…違います!!派って何ですか、派って!!」
の反応に、総司は高らかに笑う。
長く重い会合から解放されたおかげで、は自然と気がラクになっていた。
「…ここに残る事に、抵抗はないのか?嫌なのであれば、今からでも俺が局長や土方さんと話しをつけてくる。」
斎藤の申し出に、は一瞬きょとんとするも、正直に胸の内を口にした。
「展開の速さに驚いてはいますけど…網道さんの情報が入りそうな場所、他にないですし。男の人しかいないっていうのはちょっと窮屈ですけど、『郷に入っては郷に従え』ですから。」
「…ならばいい。」
微かに目元を和らげ、斎藤はクルリと背を向ける。
「あの、お気遣い、ありがとうございました。」
「…少し待っていろ。」
斎藤はの部屋を後にした。

「さて。どうしようかなぁ」
総司はの姿を改めてじっくりと観察する。
「髪は一君や平助も長いから問題ないし、服も別に女の子じゃなくても着る色だしなぁ…。」
土方さんも難問を押し付けるよね、と言いながら総司はその場に横になる。
「ちょ…沖田さん、真剣に考えて下さいよ!切腹になっちゃいますよ?」
「あぁ、平気平気。切腹は土方さんの口癖みたいな物だから。」
「……随分物騒な口癖で…。」
が複雑そうな顔をして、その場に座ると、襖の外から斎藤が「入るぞ」と声をかけたので、「どうぞ」と告げた。
斎藤は手に黒い着物と黒い胸あてを手にしている。
ゴロリと横になっている総司の姿は想像の範囲内だったのか、何も言わない。
「これをつけてみろ。」
手渡された胸あてをつけて、「どうですか?」と問いかける。
「………」
「う〜ん…ないよりはあった方がいいかなぁ?」

「次はこれを。」
黒い着物を手渡される。
「…これ…斎藤さんのですか?」
今斎藤が身に纏っている物と似ていたので問い掛けてたのだが、斎藤は「洗濯はしてある」とだけ答えた。
「俺達は廊下に出ている。着替え終わったら声をかけてくれ。総司、出るぞ。」
「えー?ボクは気にしないから大丈夫だよ。」
「…私は気にするので出て下さい。」
「気にしなくていいよ?」
「…沖田さん。」
「はいはい。わかりましたよ。」
よいしょと掛け声をかけて総司は起き上がり、斎藤の後に続いて部屋を出る。


「洋装より和装の方が男っぽくなるかな?」
「…難しいだろうが、試してみなければわからない。」
「ま、そうなんだけどさー。」
総司は大きな欠伸をして廊下に座る。

暫くすると襖がそっと開き、襖に背を向けていた沖田と斎藤はくるりと振り返る。
「…どうですか?男っぽくなりました?」
少し不安気に問い掛けるを見て、暫く2人はぽかーんと見ていたが、斎藤が言葉を選んで居る内に、総司が「無しだね。」と困ったように笑った。
は「そうですか…」と項垂れる。
「あ、似合ってるんだよ?似合ってるんだけど、逆にこう…艶が出ちゃった感じ?」
総司の言葉の通り、緩く着る事ができても、和装の方が身体の線が出やすい。
着物の合わせ目からは鎖骨が見えてしまうし、肩や腰などラインが出る分、隠さなければならない色気を、より引き出してしまった。

何かを考えていた斎藤が口を開く。
、一つ聞くが…エルフという種族は隠さなければならないのか?」
「いえ…特に隠さなくても大丈夫です。あまり広がりすぎると、私が追っている者に気付かれる可能性が出てしまうので、言って回りたくはないですけど。」
「そうか。では、エルフだからって事にしてはどうだ?」
「…何をですか?」
「もしかして、エルフだから男だけど中性的な顔なんだ、とか、そういう事?」
斎藤の言わんとしている事を理解し、総司が口を挟む。
「あぁ。エルフの姿を見た者などいないだろう。ならば外見などどうとでも言える。」
斎藤の解説に、総司はうん、と頷く。
「どうかな?悪くはないと思うんだけど。」
「そうですね、隊内の人にだけなら大丈夫だと思います。」
斎藤の提案に総司もも同意し、男装レベルアップは現状維持+斎藤の持ってきた黒い胸あては採用で幕を閉じた。